稀勢の里の優勝と横綱昇進バンザイ

14日目、白鵬貴ノ岩に敗れて、千秋楽を待たずして優勝が決まった時、稀勢の里の右目から流れた一筋の涙は、優勝の嬉しさと、入幕以来13年目にして「ようやく」と言う思いが錯綜したものだったろう。それは同時に、日本人横綱の誕生を待ち望んできた全ての日本人の涙でもあったろう。

そして、千秋楽には、白鵬の激しい寄りを土俵際で耐え抜き、すくい投げで破った瞬間、19年ぶりの日本人横綱の誕生が確実になった。

必死になって土俵際で耐え忍ぶ姿は、格下相手に取りこぼしたため、優勝に後一歩手が届かず悔し涙を流し、それでも耐え偲んで稽古を重ねて来た姿を彷彿とさせるものであった。

確か、稀勢の里の最初の親方は、「おしん横綱」といわれた隆の里だよね。やつぱり、弟子も親方に似るんだねえ・・・・・。

今場所も、9日目に、琴奨菊に一方的に押し出されて不覚をとって敗れた時は、「ああまたか」と、これまでの悪い癖が繰り返されるのを覚悟したが、それを救ったのが弟弟子の高安だった。

同じ日に、高安が白鵬を破らなければ、精神的に立ち直って白星を重ねることが出来ただろうか。優勝の最大の功労者は高安と言っても過言ではないだろう。

また、日馬富士鶴竜豪栄道と2横綱、1大関が休場して、対戦する必要がなかったことも幸運だった。この3人を打ち負かしての優勝であれば万々歳であったろうが、それは稀勢の里の及ぶところではないので、運も実力の内と考えるしかないだろう。

それにしても、上位陣の休場や怪我が多くなった。若手が力を付け、ガチンコで勝負を挑んでくるのだから、これを15日間受け止める横綱大関は大変だ。ケガの一つや二つもするのは無理もないだろう。

かつては、どう見も八百長だろうと思うような取り組みがあり、星の貸し借りが横行していた時代があったが、最近は、そんなことをすると、無気力相撲として処罰の対象になるため力士も必死だ。単なる興行から格闘技に変わったのだから。

観る方は、激しい真剣な取り組みが見られて楽しめるが、やるほうは、怪我との闘いだから大変だろう。これを2ヶ月毎、15日間繰り返していくのだから、生半可な気持ちでは相撲取りなぞ続けられないだろう。

大関を陥落した琴奨菊、負け越してカド番になった照の富士、まだ足の状態が万全ではない遠藤、休場を繰り返す日馬富士など、本来であれば、もっと活躍できたであろう力士が、怪我のためにそれができないのは残念でならない。

特に、横綱最短距離にあると思われていた照の富士が、右ひざを痛めて以来、あれほど懐の深い、粘りのある相撲が全く影を潜め、簡単に土俵を割り、土を付ける姿は、痛々しくて見ていられない。何とか治って元の姿を見せて欲しいと願うばかりである。

いずれにしも、今は、素直に、日本人横綱の誕生を歓び、今後の益々の活躍を祈りたい。